テレワークが女性のキャリア形成を後押しし、産休・育休後の離職率が半減
テレワークの導入によって、20-30代の女性の離職率が半減しただけでなく、時短勤務の利用者の割合が減少してフルタイム勤務の社員の割合が増加したというアフラック生命保険株式会社。「時間」と「場所」に捉われない働き方の実現に向け、テレワークを雇用区分や役職を問わず実施できる環境を整備してきたことで、育児で働くことやキャリアを諦めていた方だけでなく、社員全体のエンゲージメントも向上したそうです。今回は評価ポイントのひとつである「テレワークという働き方の活用による仕事と家庭の両立」の取組等についてお話を伺いました。
【総務省主催】「テレワークトップランナー2023 総務大臣賞」とは
総務省では、ICTを利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方であるテレワークの普及促進のため、先行事例の収集・表彰を行っています。2023年度は、テレワークの十分な活用実績に加え、「テレワークの活用による経営効果の発揮」、「テレワーク時のコミュニケーション・マネジメント面の課題解決」、「地域産業の活性化や地域情報化の推進等の地域課題解決への寄与につながる取組」という3つの観点も重視し、審査が行われました。
社員一人ひとりが活躍できる環境づくりのために
テレワークの導入はいつ頃から始まったのでしょうか?
2016年です。前年からアフラック流の働き方改革である「アフラック Work SMART」の取組をスタートし、テレワークはその過程で推進・拡大していきました。テスト的に導入するイメージで月1回からスタートし、2018年には週1回の実施となりました。
前提としてあったのが、2020年に東京を中心に開催が予定されていた世界的スポーツイベントです。首都圏の交通混乱が予測されたため、東京都は企業に対してテレワークの推進を奨励。我々も計画的に準備を進めていました。
一方で、保険会社の特性として「紙」の処理が多いため、「会社に来ればすぐ片付くのに、なぜ家で仕事をしなくてはいけないんだ」という声があったのも事実です。その点は、1週間の中で業務を整理し、紙がなくてもできる業務をテレワークで行うなど、組織と自助努力で少しずつ推進していきました。
その甲斐あって、2020年4月に新型コロナウイルス感染症対策を目的とした緊急事態宣言が発令された際は、ほぼ全社員がスムーズにテレワークに切り替えることができました。
特に女性の働き方改革に注力されたのはなぜでしょうか?
弊社は、約5,000人の社員のうち女性社員が約半数を占めるため、以前から女性が働きやすい環境作りに取り組んできたつもりでした。にもかかわらず、女性の管理職比率が、日本の一般的な企業と同程度の低水準に落ち込んでいました。その原因の一つに挙げられるのが、労働時間の長さです。残業があると女性社員は育休から復職しても時短勤務を選択せざるを得ません。以前と同じように働けないと、結果としてそのタイミングで退職してしまったり、キャリアを諦めてしまうという流れになってしまいます。
変化の激しい時代に新たな価値を創造していくためには、社員一人ひとりが活躍できることが重要です。そういったイノベーション企業文化の醸成のためには、女性の活躍推進と全社的な働き方改革を両輪で進めることが急務となっていたのです。
テレワークとフレックスの活用で、出産後もフルタイムで働き、キャリアを諦めない
課題解決のために行った施策には何がありますか?
女性が育休を取得する前後に座談会やキャリア研修を実施し、そのうえで働き方改革を進めてきました。
そこで大きな役割を果たしたのが、テレワークの推進です。例えば、テレワークとフレックスタイム制度を活用すれば、子育て中も時短勤務を選択せずフルタイムで働くことができます。女性に限ったことではありませんが、ちょっとした時間に家事や子供の世話ができることは、ワークライフマネジメントに直結するのです。
フレックスタイム制度については、当初はコアタイムを設ける部署もありましたが、現在はほぼフルフレックスを採用しています。その結果、復職後に時短勤務を選択する社員の割合は、2015年から2022年の7年間で27.9ポイント減少。子供が生まれてもフルタイムで働き、管理職を目指すこともできる、という認識が浸透しました。現在、管理職における女性比率は25.3%に達し、2025年末まで30%という目標が見えるところまで来ています。
時短勤務が組織に貢献できないわけではありませんが、全員がフレックスを前提に働くことで情報格差がなくなり、疎外感がなくなることは間違いありません。同じ情報の中で能力を発揮できるので、キャリアを目指すことへのハードルが低くなりました。
労務管理や評価に関する課題は、どのように乗り越えましたか?
テレワークには10年近く取り組んでいるので、ムダな制限やルールを設けず、環境を整えることを重視しています。
ただ、管理職と社員との接点が少なくなることは避けられないので、人事評価については課題になってくると予め予測していました。テレワークにおける評価とフィードバックの注意点について、全管理職向けに研修を実施しました。それに加えて、オンラインでのコミュニケーションの取り方やオンライン特有のハラスメント行為などについても管理職向けに注意喚起を行っています。
また、管理職同士のコミュニケーションの場が欲しいという声もあったため、マネジメント研修の後に分科会を設け、テーマを設定してコミュニケーションを促進。管理職同士の情報共有だけでなく、ちょっとした悩みを共有するためにも役立っているようです。
一般の社員間でのコミュニケーションに関してはいかがでしょう。
2020年に完全テレワークになって以降、3カ月に1回、全社員を対象にコミュニケーション上の不満や問題点に関するサーベイを実施しています。
コロナ禍で多く寄せられたのは、「雑談がなくなった」「運動しないのでストレスがたまる」という声です。まず「雑談」に関しては、業務時間外に会社のWeb会議システムを使ってコミュニケーションを取ることを認め、飲食をしながら気軽に対話を行うWeb会議システムでの交流会「アフラックもぐもぐタイム」などが生まれました。運動不足に関しては、インストラクターを招いたオンライン・エクササイズを昼休みの時間帯に実施しました。
テレワークとオフィスワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」を実践
全社的に完全テレワークを目指しているのでしょうか?
コロナ禍が一段落した際に、一部ではオフィスワークが復活しました。社外の方からリアルで会うことを求められたり、業務の性質上ペーパーレス化が難しい部署も残っていたのもありますが、それ以前に、すべてをテレワークで行うことが「是」ではない、と考えているからです。上司が電話している様子を見て理解を深める「経験学習」もあれば、直接リアルで話すことで迫力が伝わることもあると思います。
2021年頃からは、部門ごとに業務特性や組織の成熟度等に基づく目安出社率を設定し、テレワークとオフィスワークを最適に組み合わせた「部門型人財マネジメントにおける戦略的ハイブリッドワーク」をスタートしました。「組織成果の最大化」と「人財エンゲージメントの強化」という目的を明確にし、具体的な場面とともに定義しています。その価値を全社員に伝えることで、理解が促進されたと思っています。
具体的にどのようなことを発信したのですか?
まず、全管理職向けに以下のことを発信しました。
オフィスワークとテレワークにはそれぞれ「4つの価値」があること。そのうえで我々はハイブリッドワークをしていくこと。組織の成果を最大化することが目的で、それを考え、実践するのが管理職の役割である、という通達を出しました。
さらに一般社員向けには、社内向けの掲示板や動画ニュースを活用しました。そのなかで、経営トップからも「我々はハイブリッドワークでやっていく」というメッセージを、その価値と共に発信しました。部署により出社しなくても仕事ができる方もいれば、出社したい方もいたため、テレワークの在り方にモヤモヤ感を抱えていた社員からは「安心した」というコメントが多く寄せられました。
一方で、ハイブリッドワークなら子供が生まれても無理に時短勤務を選択する必要がないなど、「どんな事情がある人でもキャリアを目指せる、それが会社のイノベーションにつながる」というメッセージを発信したことで、出産後もキャリアアップを目指せるのだ、という雰囲気が生まれ、実際に「キャリアを諦めなくて良かった」「居場所ができた」などの声をもらっています。
従来、人事は通達を出したら終わり、という側面もありましたが、ハイブリッドワークの推進に関しては「どうしたら社員が動くか」を考え、サーベイの結果を共有するなど、統合的なプロモーションとして実施することを意識しています。
ワークライフマネジメントの実現は、全世代共通の思い
テレワークを推進し、働き方改革が進んだことで得られた成果とは?
ワークとライフの両立を考える社員は男性にも増えています。女性だけでなく、男性が育児休暇を取得してもキャリアが閉ざされないという認識も広がっています。ダイバーシティ&インクルージョンを推進してきたことで、2019年以降、男女ともに育休取得率は100%です。
また、先日行ったエンゲージメントサーベイの結果では「社員を活かす環境がある」という項目でスコアが上昇。Work SMARTな働き方に関するスコアも、前年と比較して10ポイントほど上がりました。男女共に多くの社員から「もともと働きやすい会社だったが、キャリアを考えられるようになった」「会社が社員のことを考えてくれているのが嬉しい」などの声が挙がっています。
より働きやすい会社となり、キャリアを目指して頑張りたい社員が増えたことは、本人にとってはもちろん、会社にとって非常に重要なことです。ワークライフマネジメントの実現は、子育て世代だけでなく全世代共通の願いであり、実現するためにはテレワークがあった方がいいのは間違いありません。
頑張りたいと思えることが社員のためには大事で、喜びの声を聞けたことや、多くの方の可能性を広げられたことが、この取組の一番の良い成果だと思います。
テレワークを検討している企業担当者にアドバイスをお願いします。
テレワークだけ、オフィスワークだけ、という極端な議論になると、悪いところばかり目についてしまいます。テレワークにすると社員が何しているか分からなくなるから、と不安に思う方も多いと思いますが、それは会社にいても同じこと。社員を信じてあげることも必要です。
私たちも、初めからうまくいったわけではありません。とにかくやってみて、そこで見えてくる課題を一つひとつ潰していくことで、かなりの時間をかけて風土が根づいていきました。さまざまな制度を用意し、環境を整えるだけではなく、どうやって浸透させていくかが重要なのだと思います。
アフラック生命保険株式会社
人財戦略第一部長
伊庭 達也さん
2003年に大学卒業後アフラックに入社。大分、福島の営業支社で代理店営業を経験後、2012年から人事部門(給与厚生、人事企画、人事労務等)を中心とした職務を担当。2020年に人事企画課長に就任し、新型コロナウイルス対策を担当しつつ、人財マネジメント制度改革を実行。2022年6月から現職で、人財エンゲージメント向上、人財開発、HRテック・DX推進、働き方改革など人的資本強化に向けた人財マネジメント戦略全般を担当。