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「テレワークしたことがない社員を無くす」ことが全社一斉テレワークへの布石。仮想デスクトップ普及でスムーズな移行に成功

東京都
日鉄ソリューションズ株式会社

POINT

  • 長期的な人材の確保・活躍支援を目的に、多様な働き方を実現する在宅勤務制度導入を検討。

  • 全社横断組織の発足や仮想デスクトップサービスの導入、テレワーク・デイズ参加で着々と導入準備を進める。

  • コロナ禍で原則全社員在宅勤務へ。96%の組織が実施して大きな成果を生む。

  • アフターコロナに向けて事業の本質を見極め、最適なテレワーク導入に繋げる。

労働組合からの提案をきっかけに、長期的な人材確保の観点で在宅勤務制度導入を検討。対象範囲を徐々に拡大

日本製鉄グループの中核企業として、「モダナイゼーション」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「IoT活用」等、多種多様なITソリューションやサービスを提供している日鉄ソリューションズ。2010年、労働組合からの提案をきっかけに在宅勤務制度導入検討を開始したそうです。人事企画部の藤野卓保氏が語ります。

左 人材開発部 働き方変革・D&Iグループ グループリーダー 石川洋平氏
右 人事企画部 人事企画グループ プロフェッショナル 藤野卓保氏

藤野氏:「当時、リーマンショック後の不況であってもIT分野だけは恒常的な人材不足が続いていました。さらに今後少子化による労働人口減少を見据えた時、多様な人材が安心して働ける環境づくりが、継続的な人材雇用において欠かせないと判断したことで、在宅勤務の試験導入第一歩につながりました。」

当初の試験導入の結果、時間の有効活用(特に育児・介護従事者にとって有益)、および個人業務の生産性向上等の効果が認められました。また懸念であったセキュリティ面の課題においても、2011年から自社サービスとして展開している仮想デスクトップサービス「M3DaaS(エムキューブダース)」がタイミングを同じくしてリリースされたこともあり、トラブルは発生しなかったといいます。

こうした結果を受けて、2013年からは育児者向け、翌年度には介護者向けの在宅勤務制度導入に至りました。さらに2017年度には生産性向上の効果に着目し、係長級以上の裁量労働者を対象に「利用用途制限なし」の在宅勤務制度の導入に踏み切るなど、年々対象者や利用内容の拡大を図っていきました。

全社横断組織「働き方変革推進タスクフォース」の立ち上げで活動を強化。「テレワーク・デイズ」をきっかけに全社員の約半数が在宅勤務促進活動に参加

このようにテレワーク導入に向けて着実に進めてきた一方、実際にテレワークを利用する社員は限定的であるなど、なかなか普及していかないという課題にも直面していました。その中で2015年、組織横断で全社的な取り組みを推進していく新たな組織「働き方変革タスクフォース(TF)」が立ち上がりました。

働き方変革タスクフォースの体制図。現場各部門から情報共有と報告を受けながら、全社横断的に施策の浸透を図っている。

藤野氏:「経営メンバーをはじめ、各部門の上長が参加する全社横断組織として発足しました。当時問題となっていた労働時間の適正化をはじめ、全社一体となって働き方改革を進めるための組織体制です。この組織の活動の一環で、在宅勤務・サテライトオフィスの勤務等、テレワークを活用した働き方を定着させていく取組みをスタートしました。」

働き方変革タスクフォースがあげた大きな成果の一つとしては、2017年から毎年参加している「テレワーク・デイズ」が挙げられます。

石川氏:「社員の多くはテレワークのメリットを何となく感じていながらも、何をきっかけにテレワークをすればいいのか?またテレワークは実務上、問題なく対応できるのか?疑問や不安を感じていました。そこでまずは一人でも多くの社員に、短期間でもテレワークを実際に体験してもらう必要性を感じていたことから、テレワーク・デイズ参加を決めました。」

参加後、2017年度は185人、2018年度は538人の参加にとどまりましたが、2019年度に転機が訪れます。「テレワークを体験したことがない社員を無くす」ことを目標に、原則全社員参加を義務付け。テレワークができない社員には理由を提出させることで、全員に当事者意識を持たせました。また一斉にテレワークを行うことで、テレワークが少数派だったときに感じる心理的ハードルを下げることができたといいます。
その結果、なんと全社員約3000人中約1500人、延べ人数約3000人がテレワークに参加するなど、これまでにない大きな成果を生み出すことに成功しました。

コロナ禍により「原則全社員在宅勤務」へ移行。96%の組織が実施し、8割の社員が「成果が維持向上した」と回答

2020年のコロナ禍により同社では3月下旬以降、全社員を対象に「原則在宅勤務(出社は届け出制)」に大きく舵を切ります。社長をトップとする対策本部を立ち上げ、技術部門長はじめ各部門長がタイムリーに対応を行ったことで、致命的なトラブルなく移行できたと石川氏はいいます。

2020年4~5月の緊急事態宣言中、約96%の部署が、週1日以上の在宅勤務を実施。6月以降も87%の社員が継続している。この時の経験から、多くの社員が在宅勤務による業務の成果が維持向上できたと実感している。

石川氏:「2010年の検討開始以降、そして2015年から働き方変革推進TFが主導して推進してきたことによって、テレワークの下地は整っていました。それに加えて先ほどご紹介したテレワーク・デイズへの参加を通じて、社員の多くがすでにテレワークを経験していたことも大きいと思います。
またコロナ禍によって、クライアントをはじめ社会全体がテレワークに対する許容度が高まったことで、社外の取引先や関係者から理解を得やすかったことも、原則在宅勤務に移行できた大きな要因だと考えます。」

原則在宅勤務化した緊急事態宣言中(4~5月)において、全体の96%の部署が週1日以上の在宅勤務を実施、週3日以上の在宅勤務でも84%にもなりました。また同年8月に実施した全社員アンケートによると、回答者の約8割が「在宅勤務によって成果が維持向上した」と回答。さらに回答者の約9割が、今後アフターコロナになっても在宅勤務を柔軟に活用することを希望したそうです。

しかしながら在宅勤務による「デメリット」に関しても、全社員導入によっていくつか浮き彫りになったといいます。

石川氏:「例えば通勤時間減少によって余った時間を、さらに仕事に費やしてしまう仕事熱心な社員が多いため、もっとメリハリを意識した働き方を啓蒙していく必要性を感じました。また現状、紙や判子による事務処理が残っているために一部の社員が出社しなければならないなど、業務スキームを変えなければならない部分があることも改めて浮き彫りにました。
そして最も大きな課題は、コミュニケーションの減少による社内・組織内の連帯感への影響です。会社としての方向性を今まで以上に発信するために経営層と社員の座談会を開催したり、各組織で使えるコミュニケーション活性化の工夫事例を全社にガイドしたりと、社内のコミュニケーション強化を進めているところです。
また、大部分の社員が在宅勤務を活用できているとは言え、緊急事態宣言下においても通常通り出社し続けている社員がいることは重く受け止めており、緊急時に在宅勤務ができない社員を限りなく減らすことをテレワーク推進活動の第一に置いています。」

コロナ禍の今だからこそ、事業の本質を見極め、テレワークに対応したガイドラインを作っていく

これまで約10年に渡るテレワーク導入の取組みを通じて、様々なノウハウや知見が蓄積されてきました。特にコロナ禍による不測の事態を受けて、緊急的に在宅勤務原則化に直面した際には、これまで培ったノウハウやテレワークに向けて整備してきたソフト&ハード両面での下地作りが大いに役立つことになったのです。コロナ禍がテレワーク推進を加速させたとも言えます。「これまでテレワーク導入の準備は進めてきたものの、あと一歩踏み出す‟きっかけ“がなかったから、全社への普及には何倍もの時間がかかっただろう」と振り返ります。

2020年度の内定式もオンラインで開催。10年に及ぶテレワーク導入に向けた入念な準備によってコロナ禍の今、オンライン環境を最大限活用しながら業務を行っている。今後さらにテレワークを円滑化するための環境改善や制度作りを推進していくという。

コロナ禍を受けた今こそ、社会全体がテレワークを含めた新たな働き方に対する意識改革が急速に進行しているため、テレワークを導入する絶好のチャンスだといえます。日鉄ソリューションズでは今後の課題として、現状まだ存在する「出社しなければならない様々な要因」を分析して、できる限り全社員が場所に縛られず業務ができる体制を築いていくと共に、テレワークを定着・円滑化する新たな人事制度やコミュニケーションのあり方を確立していくことだとしています。また、こうした人事制度やコミュニケーションを職場単位で適切に活用し定着させていくためにも当社事業や業務におけるテレワーク活用に資するガイドラインを策定していくことが重要とのことです。

最後にこれからテレワーク導入を検討している方に対して、石川・藤野両氏からメッセージをいただきました。

石川氏:「特にテレワークの際は上司と部下、それぞれがマネジメントに対する意識を高く持つことが重要です。上司は離れた部下をどのようにマネジメントして成果を評価していくのか?部下は自らをどのようにセルフマネジメントしていくか?それぞれが模索しながら答えを見出して社内で共有することが、テレワーク成功のカギを握ると思います」

藤野氏:「現在は感染予防のために原則在宅勤務としていますが、本質的にはすべての業務を在宅勤務で行うことが最適というわけではありません。アフターコロナに向けては、『どんな業務がどんな働き方にマッチしているのか』を自律的に見極めて、オフィス勤務とテレワークをバランスよく活用できる組織作りが重要です。」

*トップ画像はZoom Video Communications,Inc.のZoom Cloud Meetingsより引用しています。
*M3DaaSは、日鉄ソリューションズ株式会社の登録商標です。

日鉄ソリューションズ株式会社

東京都
所在地 東京都
業種 情報通信業
企業規模 1000~4999名
URL https://www.nssol.nipponsteel.com/

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