自社開発のアプリを活用して現場作業員のリモートワークを実現。建設業の特性に合わせたテレワークスタイルを確立
POINT
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働き方改革とテレワークの親和性を理解した上で、2010年から実証実験を繰り返し、業務の効率化を目指している。
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煩雑な作業のために時間外労働が当たり前になっていた状況を、ICTによるリモート化を推し進めることによって改善。
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部署の垣根を超え、テレワークを検証、推進するためのワーキンググループを創設。
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業種や社風に合ったスタイルを確立することが、テレワーク導入を成功させる近道。
既存の問題を解決し、より効率的な業務環境を目指すための「モバイル業務」
1943年創業の株式会社岡部は、富山県を拠点に土木・建築工事、公園施設関連工事などを手掛ける総合建設企業。高い技術力とチャレンジスピリットを駆使した業務実績は高い評価を受けています。新事業、新工法への取り組みに対して貪欲な同社の精神は、テレワーク導入の経緯にも現れています。
自社開発の業務管理アプリなどを駆使して、これまで煩雑であった確認、報告作業を改善。2010年から始まったこの試みが、株式会社岡部のテレワークの礎になっている。
同社がテレワークに関する取り組みに着手したのは2010年のこと。働き方改革の一環として、業務の効率化を図るのが主目的でした。作業者が現場で手を動かすことが必須であるという業務特性を念頭に置きつつ、モバイルテクノロジーを用いていかに効率化を図っていくかという発想がそもそもの始まりです。専務取締役で管理部門長を務める石永裕明氏は、この「改革」のきっかけについて当時を振り返ります。
石永氏:「弊社が手掛ける公園施設部門では、主に点検業務などにおいて顕在化していた『報告書の作成に手間と時間がかかる』という問題を解決する必要に迫られていました。そこで、それまで当たり前のように行われていた、現場で作業を行ったあと、帰社してから報告書を作成し、提出する、といった一連の業務の無駄を極力省き、時間外労働を減らすことはできないかという発想に至りました。
解決策の一貫として着手したのは、スマートフォンやタブレットを使用して即時情報共有を図るためのアプリの開発です。この自社アプリの開発に当たっては、同業他社への提供などを通じて、業界全体の業務の簡略化を目指したという部分もあります。アプリの活用によって、それまで帰社後にまとめる必要のあった点検報告書などを現場にいながら、あるいは移動時間を利用して作成、即時共有できるようになり、業務効率は格段にアップしました」
およそ5年間にわたる実証実験を経て、2015年から自社開発アプリを用いた「モバイル勤務」を本格導入。働き方改革の完遂を最終目標とした、テレワーク導入の流れが加速します。
モバイルによる業務効率化と同時に進めていたもうひとつの試みとして、在宅勤務制度の確立があります。産休中の社員の職場復帰を円滑に進めるため、会社側からパソコンの貸与などを通じてITC(情報通信技術)環境を整備。グループウェアを利用しての情報交換を行いながら対象者と会社の距離を保ち、安心して出産、育児に向き合い、再び職場に戻れるような環境を構築するのが狙いです。こちらの試みも、実験期間を設けて課題などを洗い出し、独自の「テレワーク規定」を設定したうえで、2017年からの本格的な運用につなげています。
従来の業務環境を見直し、ワークライフ・バランスを向上させることが全社的なメリットになるという信念の下に積み重ねてきたテレワークに関する試行錯誤は、2020年に突如到来した新型コロナ禍においても、同社が混乱することなく最善の職場環境を保っている礎になっているようです。
本格導入5年目に遭遇したコロナ禍が、テレワークの仕組みを強化する足掛かりに
2020年の春、新型コロナ禍への対応を迫られる中、岡部ではそれまで運用してきたテレワークのノウハウを拡大適用し、コロナ対策と業務の安定化を両立させようと奮闘を続けています。従来は原則として育児中の社員が対象であった在宅勤務を全社的に適用しつつ、出社の必要があれば分散出勤を実施。社内には、出張などから戻った社員を一時的に「隔離」しながら業務を進めるためのスペースも設置されました。各地に散らばった作業現場とのコミュニケーションについても、ICT化した現場事務所をサテライトオフィスとすることで、リモートによる密な情報交換を可能にしています。
専務取締役 管理部門長 石永裕明氏
石永氏:「ミーティングはリモートで行い、報告書などはアプリを活用してデジタルデータとして即時納品するなど、ガイドラインに従ってコロナ禍に対処しつつ、生産性を維持する試みは継続していくべきだと思います。結果として感染を防ぐだけでなく、業務の効率化、ひいては働き方改革につながる部分もあります。ただ同時に、今後さらに幅広くテレワークを適用していく上での課題の解決方法も考えなくてはならない。例えば、業務上、押印が必要な機会が多いために、完全な在宅勤務は不可能であること。リモートによるコミュニケーションだけでは、進捗の把握が難しいこと。仕事をしている家族が全員在宅勤務になり、自宅にワークスペースが足りないことなどの問題点の解消です。会社として対応できる部分もありますが、社外の環境が変わるまで待たなくてはならない場合もあります。いくつかの問題に関しては、状況を見守る必要もありそうです」
これから考証を進めていくべき課題の中には、多くの企業が苦慮しているテレワーク時における勤怠管理の問題も含まれます。
石永氏:「一時的に、GPSを活用して出社・退社を記録する勤怠管理を試行したこともありましたが、うまくいきませんでした。勤怠管理業務が複雑化することによって、マネジメントサイドの負担が増えてしまうからです。そうなると、やはり『性善説』に則った、自主性を重んじる管理体制が適当なのかなと思います。とはいえ、曖昧なまま運用を続けるのではなく、テレワークに関する規定の部分はきちんと整備しなくてはなりません。アフターコロナも見据え、規定は常にブラッシュアップできるようにするべきだと思います」
現在、岡部ではテレワークの整備とさらなる推進を目的としたワーキングチームを発足させ、表面化した課題の解決と新たなノウハウの構築を進めています。石永氏いわく、これからさらに3年間をかけて、テレワークの手法、改善点などを掘り下げていく予定だそうです。これまでの実績の蓄積に加え、コロナ禍に向き合った経験も踏まえ、理想の働き方を追求する動きは今後も続いていきます。
“完全テレワーク化”が正解ではなく、働き方改革に繋がる状況に応じた適切な運用がカギ
既に2010年からテレワークに取り組む岡部にとって、コロナ対策としての在宅勤務などの処置は、あくまで大きな改革の流れの中で生じた緊急対応のようなものです。では、働き方改革の一環としてスタートしたテレワークへの取り組みそのものは、目論見通りに進んでいるのでしょうか。
自社内で展開するテレワークを「モバイル勤務」「サテライト勤務」「在宅勤務」という大きな枠組みに分けて考えることで、それぞれの施策の有用性、運用スタイルを確認。的確な活用を目指している。
石永氏:「働きやすい環境を作るために少しずつノウハウを積み重ねてきたことによって、現状、一定の成果は出ていると確信しています。現場事務所のサテライトオフィス化、デジタル端末による情報の即時共有などは時間外勤務の削減につながり、社員のワークライフ・バランスも向上しています。一方で、テレワークに伴う電子押印の導入やペーパーレス化は、思ったより進んでいないという現実もあります。報告書などについてはデジタルデータで作成して送信・提出するという文化は定着しましたが、クライアントから『紙で見たい』という要望があれば、何千枚も印刷することもあります。取引先とのミーティングにしても、『対面で行いたい』と言われれば、それに従うのが現状です。全国的にテレワークの機運が高まっているのは間違いありませんが、ある局面においては旧来の手法が必要な側面もあるということです。周辺環境は一気に変わりませんから、状況に応じてフレキシブルに対応していくべきだと考えています」
社内で取り決めたことが、あらゆる場面で通用するとは限らないのは当然のこと。加えて、現場ありきの建設業者であり、作業現場は全国規模。多様なスタイルでテレワークを運用することが必要になります。それを事前に想定しているのも、岡部の考えるテレワークが柔軟性に富んだものに進化しつつある一因でしょう。
石永氏:「当然のことですが、現場スタッフは在宅勤務にはなりません。そこで在宅勤務が可能な内勤スタッフとの温度差が生じないように、現場なりの『リモート環境』を駆使し、削れる負担はしっかり削っていく、という考えが大切だと思っています。現場に居ながら参加できるリモート会議を設定することで、現場担当者が頻繁に本社に出向く機会を減らしたり、アプリを使って進捗情報をやり取りすることで報告時に発生する時間のロスを削減したりといった施策が、その一助になると思います。結果として、各部署ならではの働き方改革が上手くいくよう、微調整を続けていく所存です」
柔軟な思考でテレワークを運用しているからこそ、その活用法の幅は広がります。本社所在地の富山県は豪雪地帯としても知られますが、大雪によって出社できないような場合にもテレワークの効果は発揮されています。また、テレワークに絡めた新しい雇用体系を生み出した実例もあるようです。
石永氏:「今年65歳を迎えた社員を完全在宅勤務という形で再雇用したという事例もあります。設計、構造計算などを担当してもらっていますので、基本的に出社の必要はありません。業務に必要なパソコンなどの機材については貸与。消耗品については、事前に備品代として一律支給しています。勤務時間の管理などについては今後方式を調整する必要はあるかもしれませんが、新しい働き方の一例として提示できると思っています」
テレワークのメリットとデメリット、必要なものとそうでないものを明確にする作業が必要
およそ10年にわたり検証を繰り返しながら、岡部のテレワークは一歩一歩着実に進歩を遂げてきました。テレワークの必要性と有用性が広く知られるようになった現在、その実績はひとつのロールモデルとして見ることができるかもしれません。石永氏に、今後テレワークの本格導入を目指す企業に対し、体験に基づくアドバイスをいただきました。
本社土木部と土木現場をつないだリモート会議の様子。基本的に在宅勤務のない現場業務に関しては、ミーティングのリモート化、書類作成・提出業務のデジタル化などを通じて作業の効率化、時短化を推進。時間外労働の削減などの効果を上げている。
石永氏:「一気に大規模なスタイルを作るのではなく、あくまでもスモールスタート。小規模に展開しながらトライアルを重ね、方向性を見出していくことが大切かと思います。便利で効率的だとわかっていても、実際に運用を始めてみれば、予想もしなかった問題点や課題が浮かび上がってくることがあります。それらをひとつひとつ潰しながら進めるためには小さな枠組みの中で試したほうが方向修正もしやすいです。また、テレワークを全社的に展開するにはかなりの予算が必要になると思いますので、そこも意識したほうがいい。弊社はアプリを自社開発しましたが、同業他社さんに利用のご提案をするなどして開発予算を抑えたところもあります。グループウェアなどの選択についてもコストパフォーマンスを念頭に置いて選びます。
もう一つ大切なことは、『自社の特徴社風、業務特性』などを考慮して計画することです。弊社は現場作業が不可欠な建設業で、社員数は100人弱。部署によっては全国的に飛び回って活動する者もいる、といった現実を踏まえて最適な方法を導き出そうとしました。正解はひとつではありませんし、他社の真似をすればうまくいくという話でもない。自社にとって何が必要で、解決するべき問題が何なのかをきちんと考えながら進めていくのがいいと思います。」
株式会社岡部
所在地 | 富山県 |
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業種 | 建設業 |
企業規模 | 99名以下 |
URL | https://www.okabe-net.co.jp/ |