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社内全体を見回し細部を突き詰めることで見いだした、バランスの取れたテレワーク運用とは

愛知県
アイシン精機株式会社

POINT

  • 仕事と育児介護の両立支援を目的にスタートしたテレワークが、コロナ禍の影響で全社的な働き方改革のきっかけに。

  • カメラやイヤホンマイクの支給、パソコンの貸与、サテライトオフィス設置など、あらゆる手法でインフラを整備。

  • スタッフ職場の社員だけでなく、製造現場の社員も含めて一丸で働きがい改革を推進。

  • テレワーク導入にはリスクがあることが前提。リスクを机上のロジックで語るのではなく、小規模な単位で導入し、エビデンスを基に拡充。

育児や介護によって十分な業務時間が取れない社員に、キャリアアップにつながるサポートを実施。その思いがテレワーク導入のきっかけ

日本を代表する自動車部品メーカーとして知られるアイシン精機は、その高い技術と優れた生産性を武器に、現在の自動車産業をけん引する存在として進化を続けています。同社では、経営方針に「働きがい改革の推進」を掲げていることからも分かる通り、業界トップランナーの足元を支えるのは、14,000人を超える社員一人ひとりの働き方やモチベーションにきちんと目を配る社風です。

左 人事部 労政グループ 企画チーム チームリーダー 野上琢磨氏
右 人事部 労政グループ 企画チーム 松浦圭太氏

そんなアイシン精機がテレワーク制度の導入に着手したのは2016年1月。育児に携わる社員が、仕事と家庭の両立を果たし、さらにキャリアアップに繋げてほしいという思いがあったことがきっかけでした。導入の経緯について、人事部 労政グループ 企画チーム チームリーダーの野上琢磨氏は当時を振り返ります。

野上氏:「これまでは、育児を抱える社員が仕事と家庭を両立するには、勤務時間を短縮して働かなければいけない状況でした。私たちとしては、それによって生じる社員のキャリアロスを極力なくすことができないかという思いがありました。育児に対応する中でも、1日の時間をうまく活用することで、できる限り業務に関わりキャリアアップにつなげていただきたいという思いがありました」

トライアルを経て、同年4月には正式導入を決定。翌2017年には対象者を介護事由がある社員にも拡大し、より幅広い制度を目指すことになります。この一連のテレワーク導入の動きは社員からの反応も良く、導入を決断した会社側の思いと上手くシンクロしていきました。現場からの評価を汲み取るために行ったアンケートの内容について、人事部 労政グループ 企画チームの松浦圭太氏は「ポジティブな声が多かった」と言います。

松浦氏:「ワークライフバランスが向上したという声があったのも良かったのですが、制度利用者の上司からは『より大きな仕事を任せられるようになった』という報告もありました。当初から想定した『業務機会を増やしてキャリアアップを支援する』というねらいに合致した活用事例が出てきたという点で成果があったと思います。一連の高評価は、さらなるテレワークの拡大を推進していくうえでの後押しになったかと思います」

順調にノウハウを蓄積しつつ、制度のさらなる拡大、有効活用を模索する過程にあった2020年春。新型コロナウイルス感染症拡大という事態に直面し、多くの社員のテレワーク環境を早急に整える必要が生じたことで、インフラが追いつかないという問題が発生しました。

野上氏:「2020年4月の緊急事態宣言以降、全社員の在宅勤務環境を整える必要がありました。テレワークを全社に拡大する道のりにあったとはいえ、インフラ面の準備が間に合わないという壁がありました。テレワーク環境を整備するために必要な予算を組んでいませんでしたし、全国的に関連機材も不足しているという状況です。人事部門とIT部門が連携して、対応について連日喧々諤々と議論を繰り返し、結果として設備整備を整えることができましたが、対応にとても大きな苦労がありました。」

テレワークに関する不安や不満は全て解決する。きめ細やかなガイドラインもその一環。

期せずして訪れたコロナ禍が、結果としてアイシン精機のテレワークの推進を大幅に加速させ、テレワークを軸にした働き方の変革に結び付けようとしています。それに伴って生じた問題点は一つずつ確実にクリアにして、関連する各種制度や運用ルールの改定をしてきました。テレワークには、親和性が高い業務とそうではない業務があるので、その層別をしながら、テレワークと在社勤務が適切なバランスで利用される理想のスタイルを模索しているのが現状です。
当初問題となりかけたインフラの問題もしかり。現在は、テレワークに必要な備品を支給、会社のパソコンを持ち帰って使用することを可能にするなど、機材の不足については解消されています。また、人によって自宅の通信環境が整っていなかったり、自宅では仕事がしづらい状況などを考慮し、愛知県内4カ所にサテライトオフィスを設置しました。

コミュニケーションや健康管理、コンプライアンスに関するガイドラインを作成し、テレワークで起こった問題を一つずつ解決する

通勤に費やす時間が無くなり、より効率的に業務が進められるといったメリットが生まれた一方で、顔を合わせる機会が減ったことによるコミュニケーションの減少、モニター越しでは分かりにくい社員の健康面、メンタル面のケアといった部分に対する不安について、野上氏は「会話量を増やすことが一定の対処につながる」と持論を語ります。

野上氏:「リモート環境だと在社時と比べて視覚情報がどうしても少なくなるので、相手の状況を把握することが難しくなる。ただ、チャットなどを含めて会話の絶対量を増やしていくことで、ある程度は補完できるのではないかと思います。また、表情を見ながら話すということを大切にするために、積極的なカメラの利用を促しています」

それ以外にも、コミュニケーションや健康管理、コンプライアンスに関するガイドラインを作成するなど、ちょっとした不安や不満といったレベルの問題を放置せずに、きめ細やかな対応をしていこうという担当部署の努力は続いています。

そういった環境整備の結果として、業務の効率化、スピードアップはもちろん、社員個々人のワークライフバランスの面でも、確実な向上が見られます。かねてより取り組みを進めていた育児、介護を抱える社員だけではなく、対象となった他の社員の生活に対しても、新たな働き方は好影響を与えていると言えそうです。

松浦氏:「社員の視点で言えば、通勤時間が無くなり、プライベートの時間が増えたというのが最も大きなメリットかもしれません。家族との時間や会話が増えた、今まで以上に子供と遊ぶ時間が取れるようになった、といった声も上がってきているくらいですから。それ以外にも、空いた時間でオンラインセミナーに参加する、資格取得の勉強に充てる、といった自己啓発に時間を使う事例も見られるようになりました。加えて現在、副業を認める制度もトライアル中です。通勤レスで生まれた時間を活用して個々人の生活を充実させつつ、新しいスキルや経験値を会社に還元してもらうというサイクルが生み出せればいいと思います」

スタッフ部門に限らず製造部門も含めてデジタル化を推進。ペーパーレス、IoTの活用も一気に進む

テレワークの導入は、ワークスタイルの変化のみにとどまらず、会社内のさまざまな部門に影響を与え始めています。新しい働き方のスタイルによって生じる想定外の問題を明らかにするため、小集団で業務上の困りごとを話し合う機会を設けるようになったのも一例です。テレワークを円滑に行うためにあらゆる場面でのデジタル化が進んだことに伴って、ペーパーレス化も加速しました。紙の資料にいくつもの承認印を連ねることがなくなったのもその一つです。テレワーク導入とリンクさせることによって、長らく懸案となっていた課題が改革されていきました。

サテライトオフィスでの勤務風景。愛知県内の4拠点でサテライトオフィス勤務が可能。

これはテレワークの対象の大半を占めるスタッフ部門に限らず、製造部門の働き方の見直しにもつながっています。アイシン精機の主業務である自動車部品の製造は、当然のことながら多くの社員がその高い技術を直接現場で発揮してこそ成立するものです。そういった意味で、働き方の変革はスタッフ部門に限らず製造部門も含めて全社一丸となって取り組んでいくことが重要です。

野上氏:「仕事の質を高めること、働きがいやワークライフバランスを向上させることについては、製造部門の社員も含めた取り組みが必要です。製造部門の社員は当然製造現場でものづくりに従事しなくてはならないので、テレワークを利用することができませんが、テレワークとは別の路線で対応を考えていくべきだと思っています。
例えば、現場のマネージャーが苦労している煩雑な業務をIoTを活用して効率化するということ。現状、iPadやiPhoneを支給し、現場で起きていることが離れた場所であってもリアルタイムで状況共有ができるような試みを進めています。また、従来、日々の生産実績等を手書きで日報にデータ記入をする業務がありましたが、生産ラインから自動でデータが収集されるシステムを導入したことで、社員の労働時間を減らすことに繋がっています。積極的に仕事の無駄を省くだけでなく、育児や介護の両立支援という視点でも、可能な限り様々な家庭事情に対応できるように、制度の対象範囲を拡大したり、柔軟な運用ルールとすることで製造部門の社員もワークライフバランスを高めてもらえるような施策を展開しています。」

先入観からの否定的な意見があるのは当たり前。それを恐れず、実際に行動することが「働き方改革」の第一歩

多くの社員を抱え、多種多様な部門をコントロールしながら成果を上げなくてはならない企業が、テレワークをどう活かしていくのか。そこに必要なのは確固としたビジョン、そして「新しいことをするには、リスクがあって当たり前」という心構えだとお二人は語ります。

社内アンケートでは約85%が仕事以外の面(ライフ面)で肯定的な影響があったと回答。業務の効率化とワークライフバランスの両面で成果を発揮している。

松浦氏:「まずはやってみることが重要だと思います。導入すれば、課題は必ずあがってきます。先に課題をイメージしてしまうと『できない』という先入観を持ってしまうかもしれません。ただ、私の経験をもとにすると、一見難しそうなことも、意外にできてしまうものです。具体的な課題は業種や会社の状況によっても違うでしょうから、何が起こるかは正確にイメージできないと思います。それを恐れても仕方ないので、発生した時に関係者・関係部署が力を合わせて一つずつクリアしていけば良いと思います」

野上氏:「私も同じように思います。やってみることの大切さを伝えたいですね。実は弊社では、テレワーク導入時には社内で反対意見も多くありました。『社員がサボるんじゃないか』『仕事の効率は落ちないのか』『そもそもどんな効果があるのか』など、あらゆる角度から『やるべきではない理由』をぶつけられたのを覚えています。こうした意見に対して机上のロジックで反論していても事態は好転しないと思いました。
まずはひとつの部署、小さなチームからでもよいので始めてみて、実際にテレワークをやったうえで出てきた意見、すなわちエビデンスを持って議論をすることが大事です。私たちの場合、そういった小さな実験を積み重ねてきたことこそが、社内にうまく浸透し、支持を増やしてこられた要因だったと思っています。
ですから、テレワークを最初から否定するのではなく、まずは実際に体験することをおすすめします」

アイシン精機株式会社

愛知県
所在地 愛知県
業種 製造業
企業規模 10000名以上
URL https://www.aisin.co.jp/

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