1年でテレワーク利用者が約25倍に。地道なインフラ整備と、やってみる雰囲気作りがカギに
POINT
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「CATV(ケーブルテレビ)普及率9年連続全国1位」を維持する高速通信インフラをテレワークに活用。
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2013年から在宅勤務を含めた「3つのカテゴリー」検討~実証実験を経て、本格導入。
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2020年度在宅勤務利用者が前年比25倍以上に増加。自宅PC利用可能にする等の設備を充実。
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職場内の「在宅勤務をやってみる雰囲気作り」が大事。
9年連続全国1位を現在も維持。「全県CATV網構想」による高速通信網がテレワーク導入のベースに
阿波踊りや鳴門海峡などで有名な四国・徳島県。面積は約4,100㎢あまりで人口約72万人の自然豊かな県ですが、2000年代初頭までは通信や放送、IT環境面において、東京都や大阪府などの都市圏と比べて整備が遅れていました。地上波テレビに関しても長年、関西広域圏の電波を受信する体制でしたが、アナログから地上デジタル放送への移行に伴い、従来通りの放送をアンテナで視聴できなくなることが判明したのです。
このピンチを避けるべく2002年から市町村と連携して「全県CATV網構想」を推進しました。「地上デジタル放送への対応」「コミュニティ情報・災害情報の提供」に加えて「IP電話網の整備」「高速・大容量・常時接続のブロードバンド環境の整備」といったように、県内全域の通信網を数年かけて整備しました。その結果、ケーブルテレビの世帯普及率が約90%と「9年連続全国1位」を維持するまでに飛躍を遂げ、全国屈指の光ブロードバンド環境という新たなチャンスを手に入れたのです。
徳島県では「在宅勤務」「サテライトオフィス」「モバイルワーク」3つの多様な働き方を導入。徳島県内の7拠点と、東京本部と関西本部をサテライトオフィスとして利用できる。(2020年4月1日時点)
このピンチをチャンスに変えた経験から得た高速通信網の整備がその後の、テレワーク導入に大きな役割を担うことになります。徳島県としてテレワーク導入の検討を始めたのは2013年から。庁内へのテレワーク導入を推進している、経営戦略部人事課行政改革室室長の河原英治氏によると、テレワーク導入の目的として「近い将来の発生が想定される南海トラフ巨大地震などへの備えとして、災害時の業務継続力を強化する必要があったこと。そして、人口減少や少子高齢化が進行している中で、県職員の業務効率化をより一層図っていく必要があった」と述べています。
そしてこうしたテレワークの導入に関するさまざまな課題を解決するために、徳島県ではワーキンググループを発足し検討を開始、翌年の2014年~15年には、実証実験を実施することに。徳島県では今回のテレワーク導入に向けて、大きく「モバイルワーク」「サテライトオフィス」「在宅勤務」という3つのカテゴリーに分けて実験しました。
- モバイルワーク:本(万代)庁舎に勤務する職員を対象に「iPad50台」を用意して、例えば屋外でのプロモーション活動時等に活用してもらう。
- サテライトオフィス:業務用PC(端末にデータが残らないVDI方式&セキュリティが確保されたもの)を本(万代)庁舎4階に設置し、出張時に利用できるようにした。
- 在宅勤務:子育てや介護を行っている職員30人を対象に、専用PCを貸し出して在宅勤務を実施。
上記各カテゴリーで実証実験を行った結果、モバイルワークとサテライトオフィスに関しては特に大きな問題もなく、現場から「効率よく業務ができる」と好評で、そのまま2017年から本格運用をスタートしています。
一方、在宅勤務に関しては「持ち帰れない資料がある」「、在宅でできる業務が限られる」「専用PCの貸し出し手続が煩雑」などの課題が浮き彫りになりました。
在宅勤務ルールを定めた「実施の手引き」で周知徹底。トライアルを繰り返し、浸透を促す
こうした課題がさらに浮き彫りになったのは、2017年度から毎年参加している「テレワーク・デイズ」と、同時期に毎年実施している「テレワーク・トライアル月間」での検証結果でした。
「テレワーク・デイズ」には、徳島県も初年度の2017年から毎年参加しています。そして毎年同時期に、職員約3,000人を対象に県独自で実施しているのが「テレワーク・トライアル月間」。
その名の通り、先ほど紹介した「モバイルワーク」「サテライトオフィス」「在宅勤務」を一定期間内で積極的に利用してもらう取組みです。同取組みの具体的な効果として、河原氏と同じくテレワーク推進を担う経営戦略部人事課行政改革室主任主事の川端一輝氏はこのように語ります。
テレワーク・デイズ2019参加時のサテライトオフィスの勤務風景。このほかタブレット端末を活用して、現場の風景を職場に即時報告するモバイルワークも行っている。
川端氏:「2017年には全体で約150人の職員が参加して、2019年には387人へと着実に増加しています。中でも【モバイルワーク17年度:101人⇒19年度:258人】【サテライトオフィス17年度:16人⇒19年度:96人】と増加しました。
しかし【在宅勤務17年度:33人⇒19年度:33人】と、在宅勤務に関しては全く変化がありません。
このように利用がなかなか増えない理由は専用PCの貸し出し手続きが面倒といった点や、職員の多くが『仕事は職場でするもの』『自身の担当業務は在宅勤務になじまない』といった『在宅勤務に対するネガティブな潜在意識』が根強くある、という点が大きく影響しています」
ことあるごとに職員への周知徹底を図り、普及促進に努めてきたものの、2020年を迎えた段階においても特に大きな変化はなく、その中で新型コロナウイルスによる影響が日に日に増していくことになるのです。
社会情勢やハード整備により職員の意識が大きく変化。在宅勤務者が前年比25倍以上に激増
2020年春以降、新型コロナウイルスによる影響が増大していくにつれて、徳島県としてもその対応に追われました。東京都などの都市圏と比べて感染者が多くなかったことや、公共交通機関よりも自家用車での通勤がメインという地域事情もあったことから、2020年春以降も基本的な通勤スタイルに関して、都市部ほど大きな変化はなかったそうです。
しかし、これまで在宅勤務を推進してきた大きな目的である「業務効率化によるワークライフバランス実現」「有事の際の業務継続力向上」といった点に加えて、「新型コロナウイルス感染症拡大予防」という新たな目的が加わったことにより、職員の意識が大きく変化。2月以降、職員から在宅勤務を希望する声が増え始めるなど、これまでにない大きな変化が生まれたのです。その結果、2019年度まで特に変化がなかった在宅勤務利用者数が、2020年度は一気に25倍以上(延べ160人⇒4,000人以上※2020年3月~10月末の期間内)に急増しました。
これだけ急増した背景には、主に「ハード面の整備」と「職員の意識改革」の2点が挙げられます。
河原氏:「ハード面では2020年2月末以降、まずスマートフォンによる業務を認めました。さらに8月以降、自宅にあるPCでも職場内LANに接続し、『Joruri』という、県庁内ポータルシステムにアクセスできるようにしました。台数制限のあった専用PCを借りて持ち帰らずに在宅勤務を実施できるようになり、より手軽に実施できるようになりました」
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け2020年10月末現在、延べ約4,000人の職員がテレワークを実施している。
川端氏:「特に2020年度のテレワーク・トライアル月間では『初めて在宅勤務を利用してみた』という職員が増えたことから、在宅勤務に対する意識が大きく変わったように思います。」
それによって職員一人ひとりが自分の担当業務や家族、プライベートの事情などを考慮して、必要な時に、必要な業務を、業務の行いやすい場所も含めて自ら選ぶことで、自宅と職場をうまく使い分けている職員が増えているそうです。またこれまで推進してきたモバイルワークやサテライトオフィスと組み合わせることによって、さらに効率的な働き方を見出す職員もいます。
実際に在宅勤務を利用した職員からは、
「これまでの通勤時間を、家事や家族と過ごす時間に充てることができた」
「より集中しやすい環境で効率よく業務が進められた」
「思っていたより、テレビ会議に対して抵抗なく臨めた」
「テレワーク実施によってペーパーレス化など業務の見直しにつながった」
といったように、おおむね好評価の声が寄せられています。
「在宅勤務をやってみたい」と思わせる雰囲気作りが、テレワーク普及の大きなカギに
2013年度にテレワーク導入の検討をスタートしてから7年。2020年の新型コロナウイルス感染症の感染拡大により従来の働き方の状況が大きく変化したことをきっかけに、在宅勤務も急速に普及が進みました。
直接的にはこうした社会的外部要因がテレワーク普及促進の大きな原動力となっていますが、現在の状況になるまでに徳島県では「全県CATV網構想」による大容量高速通信インフラの整備をはじめ、「モバイルワーク」「サテライトオフィス」も含めた多様な働き方を可能にするための地道な取組みがあったからこそ、普及・拡大に繋がっていきました。
在宅勤務中の職員とテレビ会議を開いている様子(2018年撮影)。実際に利用してみることによって「想像以上に業務が捗って、スムーズに対応できた」といった声が多く寄せられているという
改めてこれまでの活動を振り返り、テレワークを普及させるために大事なことについて河原氏は「とりあえず“やってみる雰囲気”を作ってみること」だといいます。
河原氏:「テレワーク・デイズやテレワーク・トライアル月間によって、まずはテレワークにトライしてみるきっかけを作ること。そして実際に利用した職員が感じたメリットを、まだ試していない職員に話すことによって、さらに普及が広がっていく。この流れを作っていくために制度面だけでなく、多様な働き方に合わせた一つ一つの状況において、テレワークをやってみたいと思わせるモチベーションアップを地道に図っていくことが大切だと思います」
徳島県では「フリーアドレス制導入」や「立ち会議専用会議室の整備」を行っており、今後、さらに多様な働き方を進めていくために、「「電子決裁やペーパーレス化の推進」等を進めながら「県庁オフィス改革」に注力していく。
徳島県
所在地 | 徳島県 |
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業種 | 公務(他に分類されるものを除く) |
企業規模 | 1000~4999名 |
URL | https://www.pref.tokushima.lg.jp/ |