テレワークを採用活動に積極的に取り入れ、応募者数増加。地方ベンチャー企業がテレワークをアピールする理由とは?
POINT
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会社設立3か月目からテレワークの実証実験を開始。オフショア※ ノウハウを活用。
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採用活動で完全テレワークをアピール。3年で応募者が約5倍に急増。
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2020年「完全オンライン採用活動」で5名のスタッフを採用。スムーズに入社。
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テレワーク前提の勤務体制で出産育児の事情に左右されず、優秀な人材が活躍できる。
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「オフィスでしてはならないことを自宅でもしない」を徹底してスタッフを意識改革。
※オフショア - 海外に国内の業務の一部または全部を委託すること。
「海外オフショアの仕組みを、日本国内でもできるのでは?」という発想がベース。会社設立後3か月目からテレワーク導入の実証実験を開始
2017年に設立した株式会社KATSUMOK(カツモク)は、福岡県を拠点にWEB制作事業を手掛けるベンチャー企業です。わずか4名でスタートしましたが、実は前身となる会社時代から、海外に拠点を置き、オフショア開発を手掛けてきた実績がありました。当然ですがオフショア開発の場合、基本オンラインによるリモートで連絡を取りながら現地の開発メンバーと連携していくスタイル。ですから同社では、すでに設立時からリモートワークを実践していたことになります。
一方、国内に目を向けたときにある大きな課題に直面していました。それは「スタッフ採用」です。
フィリピンのセブ島にある、海外オフショア拠点。KATSUMOK2名のスタッフと現地のエンジニアがのびのび活躍する中、福岡本社ともオンラインでシームレスにコミュニケーションを取りながら、円滑に業務を進めている。
同社の代表取締役である折田氏は「設立当時、福岡県にある無名の会社でわずか4名の体制ながら、WEB制作案件が多く、人材不足に悩まされていました。またせっかく採用しても、遠距離通勤などによって体調を崩してしまうスタッフがいて、抜本的に採用活動やスタッフの受け入れ態勢を整えなければと考えていました」と、設立当時の最大の課題について振り返っています。
そこで注目したのが、テレワーク導入による働き方改革。
折田氏:「すでにオフショア開発で同じような働き方を実現していることから、日本でも自然とできるのではないか、と考えテストしてみることにしました」
設立3か月目から、遠方から2時間かけて通勤していた一人のスタッフをモデルケースに半年かけてテレワーク導入テストを実施しました。具体的に「週3回の出勤」スタイルで、『オフィスでしないことは、家でもしない』というシンプルなルールを設けたのです。例えば「パジャマを着て仕事をしない」「オンライン上でも必ず挨拶をする」といった当たり前のマナーやルールを徹底すれば、あとは自分のスタイルで仕事ができるようにしました。
その結果、1日2時間かけて通勤していた時間を削減できたことで、平日夜に開催される地域活動に参加しやすくなったり、体調も安定してくるなど大きなメリットが認められたほか、常時オンラインで連絡が取れるため、特に普段の業務にも支障をきたすことはなかったため、本格的な導入を移っていくことになります。
3年間で「4人⇒18人」にスタッフ急増。テレワークアピールで、中途人材採用に大きな効果を生み出す
設立2年目からは求人を出せば必ず応募が来るように。自分のライフスタイルに合わせて好きな場所で働けることが、大きなアピールポイントになっている。
そして会社設立以来からの最大の課題でもあった人材不足において、テレワークによる働き方をアピールすることによって大きな効果を生み出したといいます。その効果について、折田氏はこのように説明します。
折田氏:「設立後3か月ほどは、当社への応募者がゼロでしたが、テレワークを本格的に導入した2018年度以降、若手層を主体に応募者がぽつぽつと増えていくと共に、スタッフ数も増加。直近では毎月10~30件ほどの面談を実施しており、スタッフ数も18名まで拡大しています」
このように設立当時の4名からわずか3年で18名にまで拡大してきましたが、人材応募増加の背景としては大きく「3段階」に分けられるそうです。
【STEP1】障害者支援施設からの問い合わせが月5~6件の割合で増える
障害をお持ちの方が、無理なく働けるテレワークにマッチしやすい点が魅力。「一度職場を見学させてほしい」といった声が寄せられ、中には青森県の施設からの問い合わせも。
【STEP2】クリエイターやエンジニア専門学校、外国人教育施設からの問い合わせが増える
創作活動など自分の時間を大切にしたいクリエイターやエンジニアの方が、新しい働き方としてテレワークに興味を持ち、また日本語を学んだ留学生が、海外にも拠点を持つことも含めて「福岡県以外の国内、または海外でも働ける」点に魅力を感じて問い合わせが増える。
【STEP3】一般の方からの問い合わせが増える
特に山口県や長崎県など近隣の県から、これまでのライフスタイルを維持しながら、現実的に福岡県エリアへの出社もできる働き方に興味を持つ層が増える。
3つのステップを踏みながら少しずつ応募者層が職種や居住地問わず拡大していくことによって、採用のチャンスも比例して拡大していきました。
「完全オンライン採用活動」で2020年度、5名が入社。転勤や出産育児でも、自分の能力を活かして活躍できる
2020年度、新型コロナウイルスの影響により同社では基本、テレワーク勤務が主体で全体の約3割は「週ゼロ出社による完全リモートワーク」を実現しています。これまで取り組んできた実績があるため、完全リモートワークに移行しても特に現場で大きな混乱はなく、また設立以来、新型コロナウイルスはもとより、インフルエンザなどの流行疾患患者数は会社設立以来、ゼロを維持。そこには「体調不良時、無理に出社をしない」「いつでも気軽に通院できる」「長時間通勤を減らし、心身のストレスを軽減」といったテレワークならではのメリットが影響しています。
テレワークを推進している企業として、地元福岡県のテレビメディアにも取り上げられた。オンラインで採用活動するスタイルが注目を集めている。
また「テレワークがあったからこそ、優秀な人材を採用できた」というケースが複数あると折田氏はいいます。
折田氏:「2年前に入社したブリッジSE※ の女性スタッフは、ご主人の仕事の都合で定期的に転勤が伴う事情がありました。そこでテレワークを導入していて、なおかつブリッジSEとしての経験を活かせる当社に興味を持ってもらい、入社することに。入社時は長崎県にお住まいで、月1ペースで出社していましたが、夫の転勤で名古屋に移住する事に。今までであれば、移住の度に転職を余儀なくされていた様ですが、そういう事も無くなく在籍し続けていただいています。
また別のある女性デザイナーの方は、医療ケアが必要なお子さんがいるため長時間勤務が難しい状況でした。デザイナーとしてのスキルは高かったので、ぜひその能力を当社に活かしてほしいと考え、パートとして入社してもらうことに。今はリモートで月に10~20時間程度のペースで仕事をしてもらっています」
※ブリッジSE -オフショアした業務を円滑に進めるために、日本側と海外側の橋渡しを行うシステムエンジニア。
エンジニアやデザイナーとしての高いスキルを持ちつつも、家庭の事情で従来型の働き方が難しく、泣く泣く入社をあきらめているケースは少なくないようです。それも「テレワーク」という新しい働き方の選択肢を用意することによって採用企業と求職者、双方にメリットをもたらすことを折田氏の語ったことが示しています。
そして採用活動に関しても2020年、「完全オンライン」に全面移行して、これまで5名のスタッフ採用を実現しています。採用期間中、一度も直接会わずに採用を決めてしまうことに不安を感じる方もいるかもしれませんが、同社では入社後トレーナーがついてテレワークならではの働き方ルールの説明を行ったり、チームごとに上長がサポートすることで、今のところ入社後のトラブルもないそうです。
「テレワーク=自宅で自由にできる」という意識を改め、「オフィスでしてはならないことを自宅でもしない」を徹底
設立当時から積極的にテレワークを導入してきたことで、コロナ禍という予期せぬ出来事による完全リモートワークへの移行時も、わずかに端末を買い足しただけであとは何もせずスムーズに対応できました。その同社がテレワークをスムーズに普及させていく効果的な方法として挙げたのは、「テレワークに対する様々な誤解を解く」という点です。
勤怠管理ソフトを全スタッフの会社の貸与PCに導入することによって、スタッフ一人ひとりの勤務状況をリアルタイムで把握できる。
折田氏:「導入当初や、テレワークに魅力を感じて応募してきた方の中には『本当に家で自由に仕事ができるのか?』といったように、テレワークに対して間違った捉え方をしているケースが多く見受けられました。そこで当社では会社設立後に実施したテレワークの検証実験で得た『オフィスでしてはならないことを、自宅でもしない』という、誰にでもわかりやすいシンプルなルールを設定し徹底することによって少しずつ、スタッフ一人ひとりの共通認識を深めていきました」
加えて同社では「スタッフの会社の貸与PCに勤怠管理ソフトを導入」「1日2回(1回あたり20分程度)、オンライン上でスタッフ同士が雑談をしたり、オンラインを繋げたまま黙々と作業するなど、同じ職場で働いている雰囲気づくり」をするなど、テレワーク環境を整備していくことで、完全リモートワークでも問題なく業務に対応できているといいます。
今後、同社では「週休3日&週休4日制の導入」「短時間労働正スタッフの採用」「ワーケーションを含んだ、海外拠点での研修旅行の実施」「テレワークによるインターンシップの実施」など、優秀な人材を継続的に採用して活躍できるような働き方や環境づくりを、積極的に推進していくそうです。
最後にこれからテレワーク導入を考えている方に対して、折田氏からのアドバイスとして「まずは台風など出勤が困難な状況時に、臨時的に全員テレワークを採用してみることで業務上、何が問題で、何が問題ではないのかがわかります。そこから少しずつ修正を繰り返していくことで目に見える結果が出てくると思うので『とりあえずできることからやってみる』という意識で始めたらいかがでしょうか」と問いかけています。
株式会社KATSUMOK
所在地 | 福岡県 |
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業種 | サービス業(他に分類されないもの) |
企業規模 | 99名以下 |
URL | https://katsumok.com |