テレワーク移行に3つのフェーズを設ける。従業員エンゲージメントを高める重要性
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マルチモニター用のセカンドディスプレイやポータブル無線LANルーターなどのハードウェアを貸し出し、在宅勤務での生産性を維持。
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81%の従業員が「オフィス環境と同様の生産性を維持することができている」と回答。
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人事部や有志従業員が中心となってオンラインでできるボランティアやウェルビーイングを促進する場を設け、従業員エンゲージメントを高めることに成功。
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オンラインで新たなコミュニケーションが生まれ、テレワークによって従業員エンゲージメントを高められれば、経営側にもメリットが生じる。
制度の整備と危機管理チームの情報発信が全従業員のテレワーク移行をスムーズに
仮想デスクトップ基盤を中心に、リモートワークによる働き方改革を支援するシトリックス・システムズ・ジャパン。自社のソリューションなどを活用し、2000年代から従業員のエクスペリエンスを優先に考えるテレワークを導入してきました。従業員の自律的な働き方を推奨し、在宅勤務やモバイル勤務などを充実させ、自宅やカフェ、あるいはサードプレイスとしてカラオケボックスの利用を認めるなど、時間と場所にとらわれずに働くことができるように人事制度を整えていました。
とはいえ、シトリックス・システムズ・ジャパンの多くの従業員にとっては、オフィスがメインの仕事場であり、従業員同士がチャットやメールのみで行う仮想空間のコミュニケーションよりも、対面のコミュニケーションが重視されていました。しかし、新型コロナウイルスによってその状況が変わっていきました。
左 人事部部長 小林いづみ氏
右 エグゼクティブエンゲージメントシニアマネージャー 小柳津裕子氏
世間に新型コロナウイルスが広まると、テレワーク勤務の推奨、海外出張の原則禁止などの施策を会社が取る中で、テレワークで働く従業員が増えてきましたが、それでも従業員の選択としてのテレワークを実施していました。
その状況が一変したのは2020年3月25日。東京都が外出自粛要請を出した事がきっかけとなりました。
その翌日の3月26日にシトリックス・システムズ・ジャパンは全従業員必須のテレワークを開始しました。人事部 部長の小林いづみ氏は当時をこう振り返ります。
小林氏:「26日に代表取締役社長である尾羽沢が全従業員の在宅勤務を指示するメッセージを出しました。この日は人事部に新入社員が入社し、オフィス案内を含めた入社初日のオリエンテーションを対面で実施していましたが、翌日から即在宅勤務で仕事が進められるような内容に変更して体制を整えました。全従業員が大きな混乱なく素早く行動できたのは、それまでの準備があってこそのことと思います」
それができたのはBCMT(Business Continuity Management Team)という危機管理チームが存在したからだと言います。BCMTが継続的に新型コロナウイルス情報を発信し続けていたため、従業員が迅速な対応を行えたのです。
テレワークに必要なハードウェアを貸与。コミュニケーションの機会も設けて生産性を落とさない
シトリックス・システムズ・ジャパンのコロナ禍のテレワークは大きく3つのフェーズに分けることができます。(1)全従業員がテレワークに移行し、環境を整える第1フェーズ、(2)テレワークの中で、メンタルヘルスケアをした第2フェーズ、(3)従業員に制限つきでオフィスで働く選択肢を提供する第3フェーズ――の3つです。
在宅でもオフィスと変わらない生産効率を実現。
3月26日以前からオフィスに出社せずに働くチームも多くいました。顧客からの問い合わせに対応するテクニカルサポートチームがその1つです。
会社もテクニカルサポートチームのテレワークへの取り組みを支援しました。急に自宅のリビングがオフィスに変わったので、調整に時間もかかりましたが、自宅で働く上で必要となるマルチモニター用のセカンドディスプレイやポータブル無線LANルーターなどのハードウェアを貸し出し、オフィスに近い環境を整えました。
また、オンライン会議システムで朝会を実施し、参加者がその日の予定や困っていることを発言する機会を設けたり、チャットツール「Slack」を使って質問や解決策を共有できるようにしたり、終業後の終わりの会で一日の振り返りや雑談できたりするようにもしました。テレワークをしていても社員同士のコミュニケーションが希薄にならないように、様々な対策を整えました。
そして、3月26日にはテクニカルサポートチームを含むすべての従業員がテレワークで働くようになりました。
オンラインボランティアや従業員交流の場を設け従業員エンゲージメントを高める
第2フェーズでは、オンライン会議が連日続き常時デジタルに埋没する中で、メンタルヘルスや孤立化が問題視されるようになり、テレワークを行う従業員の従業員エンゲージメントを高めることに注力しました。
従業員エンゲージメントとは、仕事と職場に積極的に関わり、それについて熱意を抱き業務に専念することです。企業の成功は高い従業員エンゲージメントにより実現されるとも言われています。
NPO法人の着物をリメイクしたマスク作りに参加。業務とは違った形で従業員同士が交流・活動することで、従業員エンゲージメントを向上させる。
第1フェーズで、テクノロジーや環境を整え、生産性を保つことはできましたが、長期化するテレワークで、デジタル一色になる中、デジタルとの調和を図る「デジタルウェルネス」というテーマを掲げました。少しでもリフレッシュできる時間や場を設け、従業員同士のつながる活動を行ったのです。
第2フェーズを先導したのが人事部と、およそ15人の有志従業員で構成された社内チームです。この有志グループは、従業員エンゲージメントの向上とIT業界における女性活躍を目的としています。
有志グループはコロナ禍の中、オンラインでラジオ体操を企画、運営をするようになりました。有志グループメンバーの1人で、エグゼクティブ エンゲージメント シニアマネージャーの小柳津裕子(おやいづひろこ)氏はこう話します。
小柳津氏:「従業員同士のつながりを絶やさずにみんなで一体感を持てる活動は何かと考えて始めたのが朝のラジオ体操でした。毎週水曜日にできるだけ多くの従業員に参加してもらい、8時40分から始まるラジオ体操の放送に合わせて行うのです」
従業員だけでなくその家族や米国のシトリックス・システムズのメンバーが参加することがあると言います。
小柳津氏:「話を聞きつけた当社のお客様が一緒にラジオ体操をしてくださったこともあります。水曜日を楽しみにしている従業員もいると聞いています」
デジタルウェルネスというテーマでは、従業員がインストラクターになってボクササイズ、ヨガ、メディテーションを行い、従業員が集える場所の提供に努めました。
また、スペシャリティコーヒーの有資格者を招き、オンラインで「世界一おいしいコーヒーの淹れ方オンライン講座」を開催したこともありました。年末に向けては、日本酒のたしなみ方というテーマで本年度最後の従業員エンゲージメントの企画をしています。
コーポレート コミュニケーション シニアマネージャーの小保方順子氏はこう話します。
小保方氏:「オフィスで仲間と一緒に働くことを自身のアイデンティティとしていた従業員は多くいます。そういった従業員の孤独感をなくすための活動が必要でした。オンラインではありますが、コンテンツ次第で繋がりを作り出し、そして、新たなコミュニティが出来上がっていくのを目の当たりにし、デジタル環境の中でも従業員同士のつながりを構築できることを実感しました」
人事部が行った施策の1つにオンラインでのボランティア活動があります。シトリックス・システムズ・ジャパンは従来から従業員にボランティア活動を奨励してきました。コロナ禍によってリアルなボランティア活動が難しくなったため、オンラインでできることに取り組んだのです。
まず取り組んだのは、北海道のNPO法人「陽だまりの家」が主催する「着物プロジェクト陽」と協力し、仮装空間でのボランティア活動を実現させました。家庭のタンスに眠る着物をリメイクして販売し、その売り上げを中高生への学業や食事の支援費用に充てる取り組みです。
シトリックス・システムズ・ジャパンの参加者は着物からマスクを作りました。参加者には着物の端切れが入った制作キットが送られてきます。Web会議ツールを利用して、陽だまりの家のボランティアメンバーから作り方を教わり、参加者がマスクを作り上げていきました。
次は、従業員エンゲージメントとCSR(企業の社会的責任)を連動させた「Helping Handsプログラム」に参加しました。義手を作りながらチームビルディングを体験するボランティア活動を行ったのです。
参加者は5人1チームとなり、バーチャルな環境で義手を完成させていきます。リーダー役の参加者の手元にだけ義手の作り方のマニュアルがあり、ほかの参加者はリーダーの説明を受けながら、自宅に届いた制作キットで義手の一部を作ります。共同作業を行うことで従業員のエンゲージメントを高めることにつながりました。
また、シトリックス・システムズ・ジャパンでは、東日本大震災の被災者および被災地の支援を目的として、2012年より毎年南三陸でのボランティアに参加していましたが、今年は、NPO法人フェローズウィルが主催するオンラインで「南三陸応援ツアー」を実現しました。現地になんらかの形で触れ合いたいという声や、ボランティアで来られた方々や南三陸を思う方々との繋がりを大事にしたいが繋がりを生みました。現地で海産物の生産と販売を営む方とライブで繋がり、海産物のワカメのワークショップに参加しました。
パルスサーベイ で従業員のニーズを把握。81%がテレワークでも生産性を維持していると回答
現在は第3フェーズを迎えています。2020年10月から人数制限を行いながら、従業員がオフィスで働く環境を整えています。
第3フェーズで重要な判断材料となったのが、従業員への調査です。会社がテレワーク環境を充実させる施策を実施しても、それが従業員のニーズに合わないと従業員エンゲージメントにつながりません。そのため、従業員のニーズを知るための「パルスサーベイ」を行いました。パルスサーベイとは、パルス=脈を測るように従業員の声を早く聞いて素早くアクションを起こすための調査です。
パルスサーベイを定期的に実施し、従業員の希望や考えを確認している。従業員からは継続的なリモート勤務を希望する声が多いことが判明。
2020年7月に行った2回目のパルスサーベイでは、オフィスに出社することを前提にした質問を用意しました。そこで明らかになったのは、従業員の30%が「週に3日以下の出社でよい」、60%が「継続的なリモート勤務あるいはミーティングなどの用事がある場合だけの出社でよい」と考えており、10%が「週に3日以上~5日の出社を希望」していることでした。また、自身の生産性について、81%の従業員が「オフィス環境と同様の生産性を維持することができている」と回答しました。シトリックス・システムズ・ジャパンが進めてきたテレワーク環境整備の取り組みの成果が確認できたのです。
小林氏:「パルスサーベイによって従業員のニーズを一つの材料とし、他の複雑な要件を配慮しながら検討、またBCMTとの協議を重ねた結果、10月から第3フェーズに移行することができました。もし、オフィスで働きたいという従業員が大勢を占めていたら、第3フェーズへの移行のタイミングやローテーション方法は検討されたかもしれません。今は三密を回避するためにオフィスに出社する従業員の制限が重要だからです」
オンラインで新たなコミュニケーションが生まれ、企業にも新たなメリットが生まれる
従業員同士がつながれる場所を意図的に作ることで、コミュニケーション不足を解消するだけでなく、新たなつながりや発見を生みだすことができる。
コロナ禍のテレワークによってわかったことがありました。偶発的なコミュニケーションという点ではリアルなコミュニケーションにかないませんが、オンラインは時空を超えたコミュニケーションの実現が可能です。オンラインでは意図的に機会をつくらなければなりませんが、シトリックス・システムズ・ジャパンでは前述のボランティアなどのように一度機会をつくることで、そこから新たなコミュニケーションを生むことができました。
従業員にとってメリットが大きいテレワークですが、経営側にとってもメリットがあると、小保方氏は語ります。
小保方氏:「例えば、在宅ベースで働きたいという優秀な人を採用することができたり、オフィスの面積を少なくすることで経費を抑えたりすることができるのです。テレワークによって従業員エンゲージメントが上がることも見逃せません。従業員エンゲージメントが高まることで企業は売り上げや利益も高い傾向があるからです」
シトリックス・システムズ・ジャパンが歩んだ道は、テレワークの導入に取り組む企業や団体も通ることになるはずです。同社の経験の中にはどんな企業にとっても参考になるポイントが少なからずあるのではないでしょうか。
シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社
所在地 | 東京都 |
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業種 | 情報通信業 |
企業規模 | 100~299名 |
URL | https://www.citrix.com/ja-jp/ |